介護職のパワハラかもしれないとき|指導との違い・記録・相談の順番
「これって、指導なのかな」
「言われた内容は間違っていないけど、ここまで責められる必要があるんだろうか」
「パワハラと言うほどではない気もする。でも、ずっと引っかかっている」
介護の仕事では、ミスや手順について指摘を受けることがあります。
利用者さんの安全に関わる仕事だからこそ、必要な注意や指導があるのは事実です。
一方で、
- 一度伝えれば済むことを何度も責め続ける
- 大きな声や強い口調で詰める
- 指摘が終わったあとも、本人に聞こえる場所でその人のことを悪く言う
といったことまで、すべて「指導だから仕方ない」と飲み込む必要があるのかは別の話です。
厚生労働省は、職場のパワーハラスメントを、
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
の3つをすべて満たすものと整理しています。
一方で、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラには該当しません。
だからといって、自分でこの3つを完璧に判定できるまで何もしてはいけないわけではありません。
この記事で目指すのは、
「これはパワハラだ」と自分一人で確定することではなく、起きた出来事を整理し、必要なら記録や相談へ進める状態になること
です。
パワハラか分からなくても、違和感をそのまま流さなくていい
強く注意されたとき、
「自分がミスをしたんだから仕方ない」
「介護現場ではこれくらい普通なのかもしれない」
「パワハラと言うほどではないから、相談するのは大げさかな」
と考えることがあります。
でも、まず分けて考えたいのは、
指摘された内容に理由があることと、その伝え方や扱われ方まで何でも許されることは同じではない
ということです。
仕事上、改善すべき点があれば指摘を受けることはあります。
その一方で、厚生労働省は、パワハラに当たるかを判断する際、言動の目的や経緯、どのような言い方・やり方だったか、頻度や継続性、当事者の関係など、さまざまな要素を総合的に考慮するとしています。
労働者側に問題行動があった場合でも、人格を否定するような言動など、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であれば、パワハラに当たり得るとされています。
つまり、
「自分にも直すところがあった」
と、
「だから、どんな責められ方でも受け入れなければならない」
は分けて考えていいということです。
なお、「優越的な関係」というと上司をイメージしやすいですが、役職が上の人だけとは限りません。
厚生労働省は、業務上必要な知識や豊富な経験を持ち、その人の協力がなければ仕事を円滑に進めにくい同僚や、複数人からの言動で抵抗や拒絶が難しい場合なども例として挙げています。
そのため、肩書だけで決まるものではありません。
ただし、「先輩だから言い返しにくい」と感じるだけで、直ちにこの要件へ当てはまると決めるものでもありません。
指摘の「内容」と、その後の「扱われ方」を分けてみる
「指導なのか、行き過ぎた言動なのか分からない」ときは、いきなり名前をつけようとするより、起きたことを分けてみる方が整理しやすくなります。
まず、
何を指摘されたのか。
記録の抜けだったのか。
ケアの手順だったのか。
確認不足だったのか。
ここは、仕事として修正が必要だった部分です。
そのうえで、
どのように指摘されたのか。
も分けて見ます。
たとえば、
- 一度伝えれば済む内容を何度も責め続けられた
- 大きな声や強い口調で詰められた
- 説明や確認ではなく、責めることが長く続いた
- 指摘が終わったあとも、本人に聞こえるところで他の職員へ愚痴を言われた
といったことです。
私自身、介護現場で、一度注意すれば済む内容を何度も責められたり、大きな声や強い口調で詰められたり、指摘が終わったあとに本人へ聞こえる場所でその人への愚痴を話されたりした経験があります。
ミスや改善点を伝えることと、必要以上に責め続けることは同じではありません。
厚生労働省の指針でも、
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を行うための手段として不適切な言動
- 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
などが、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動を考える材料として示されています。
ただし、
「大声だったからパワハラ」
「何回言われたからパワハラ」
と、この記事だけで機械的に判定できるものではありません。
見るべきなのは、指摘する必要があったかどうかだけでなく、何のために、どのような言い方で、どの程度行われたのかです。
「これくらい普通」と思い始めていても、判断材料から外さない
もう一つ気をつけたいのが、職場の空気に慣れてしまうことです。
私自身、誰かを責めることや威圧的な言い方が続く職場にいるうちに、
「まあ、こういう職場だから」
「これくらい普通なんだろう」
と受け止めるようになっていた時期があります。
周囲も同じように受け入れていると、自分が、
「怖かった」
「この言い方はおかしくないか」
と感じたことまで、自分で消してしまいやすくなります。
もちろん、
「嫌だったから、相手が全部悪い」
と決める必要はありません。
違和感を持った自分が、必ず正しいと決める必要もありません。
ただ、
傷ついた。怖かった。もやもやした。
という自分の反応まで、
「自分が気にし過ぎているだけ」
と最初から判断材料から外す必要もありません。
違和感は残したまま、実際に何が起きたのかを確認する。
その順番でいいと思います。
あとから確認できるように、まず「起きたこと」を残す
「パワハラかもしれない」と思ったとき、よく言われるのが「証拠を残しましょう」という話です。
ただ、私はここを簡単には言いたくありません。
実際に嫌なことが起きたその場で、
「これは将来必要になるかもしれないから、証拠をそろえよう」
と冷静に考えられるとは限らないからです。
また、何かを残したからといって、それだけで必ずパワハラと認められたり、自分が望んだ結果になったりするとも限りません。
それでも、度が過ぎていると感じることがあったとき、余裕があれば、
あとから自分や相談相手が出来事を確認できるように残しておく
意味はあります。
このときは、「起きた事実」と「自分の受け止めや影響」を分けて残すと整理しやすくなります。
まず、起きた事実として、
- いつごろ
- どこで
- 誰から
- 何を言われた、または何をされたか
- その前後に何があったか
- その場にいた人、見聞きしていた人
などを書きます。
そのうえで、
- そのとき自分はどう感じたか
- その後、質問や確認がしづらくなったか
- 仕事にどんな影響が出たか
も分けて残しておきます。
厚生労働省の相談対応例でも、問題となった言動について「誰が」「いつ・どこで・どのように行ったか」に加え、相談者がどう感じ、どう対応したかなどを確認する流れが示されています。
記録の目的は、最初から「パワハラを証明する書類を完成させること」ではありません。
まずは、
自分の記憶だけに任せず、あとから起きたことを確認できるようにする。
そのくらいから考えていいと思います。
その場で何も残せなかったとしても、
「もう遅い」
と決める必要はありません。
今から覚えている範囲を整理しておくことにも意味があります。
日時や出来事、自分への影響を相談前のメモとしてもう少し整理したい場合は、「介護職が人間関係の相談前に残したい記録|事実メモの書き方」で、事実・自分への影響・相談したいことを分ける方法を整理しています。
傷ついた・もやもやした段階でも、相談していい
では、どこまでいったら相談すればいいのでしょうか。
「3回続いたら」
「仕事に支障が出たら」
「もう限界だと思ったら」
と、すべての人に共通するラインを決めることはできません。
人によって状況は違いますし、私は限界になってから相談してほしいとは思いません。
一度強く注意されたときに、
「何について指摘されたのだろう」
と内容を確認することはできます。
ただし、「一度だけなら問題ではない」という意味でもありません。
厚生労働省は、言動の頻度や継続性を判断材料としつつ、強い身体的・精神的苦痛を与えるような言動では、一度でも就業環境を害する場合があるとしています。
だから、
「何回までなら耐えなければならない」
という基準を作る必要はありません。
傷ついた。
怖かった。
あとになっても、何となくもやもやする。
同じような責められ方が続いている。
相手が怖くて質問や確認がしづらくなっている。
そう感じた段階で、一人で抱え続けず、相談できる相手や窓口に一度話してみるのも選択肢です。
「もっとひどくなってから」
「何回も続いてから」
と、自分で相談のハードルを上げる必要はありません。
パワハラに該当するかどうかがはっきりしない段階を含め、幅広く相談へ対応できる体制を整えることが事業主には求められています。
自分で、
「これは間違いなくパワハラです」
と証明してからでなければ、相談してはいけないわけではありません。
本来は、
「これって相談してもいいのかな」と一人で限界まで悩まなくて済む職場を、チームや組織として作ることも大切です。
相談したあとに事実確認や調整が行われるのか、それとも同じ問題が繰り返し放置されるのかまで見て、「この職場に残れるか」を考えたい場合は、「辞めたほうがいい介護施設の特徴|残る・相談する・離れるを決める判断基準」で、職場そのものの改善力を整理しています。
相談する側だけに、
「相談するほど重大なのかを正しく見極めてから来てください」
という責任を背負わせる必要はないと思います。
相談するときは「パワハラです」と決めつけなくていい
いざ相談しようと思っても、
「パワハラだと言って、違ったらどうしよう」
と迷うことがあります。
そのときは、無理に名前をつけなくても構いません。
たとえば、
「パワハラに当たるかは自分では分からないのですが、○○ということがありました。私はその言われ方が怖く、少し引っかかっています」
という伝え方でも構いません。
ここで大切なのは、
「○○さんはパワハラをする人です」
と相手の人格を決めることではなく、
「こういう出来事があって、自分はこう感じている」
と共有することです。
厚生労働省の案内でも、相談者の話を聞いたうえで、必要に応じて行為者や第三者から事実関係を確認する流れが示されています。
だからこそ、相談する本人が最初から結論まで出しておく必要はありません。
職場の誰に相談するか、どの順番で伝えるかについては、「介護職の人間関係を相談するとき|相談相手・伝え方・最初の順番」で詳しく整理しています。
相談先は、直属の上司だけとは限りません。
会社によっては、人事やハラスメント相談窓口のほか、外部委託の相談窓口や従業員向けの相談サービスが用意されていることもあります。
また、職場や会社が用意した窓口では相談しづらい場合は、会社の外にある公的な相談先を利用する方法もあります。
厚生労働省の「総合労働相談コーナー」では、パワハラやいじめ・嫌がらせを含む幅広い労働問題について、無料で相談できます。必要に応じて、助言・指導やあっせんなどの制度について案内を受けることもできます。
私自身、勤務先が用意していた外部の相談窓口と、総合労働相談コーナーの両方を利用した経験があります。
どちらも、相談しただけで状況が大きく変わったわけではありませんでした。
それでも、自分が置かれている状況を職場の外にいる人へ話し、今後どんな選択肢があるのかを確認する機会にはなりました。
相談窓口は、利用すれば必ず職場の問題を解決してくれる場所とは限りません。
だからこそ、「相談すれば解決する」と期待し過ぎるのではなく、一人で抱え込まず、今の状況を整理したり、次に取れる方法を確認したりするための選択肢の一つとして考えておくとよいと思います。
まずこの記事では、
「自分だけでパワハラ認定までしなくていい」
というところまで覚えておいてください。
まず一つの出来事を整理するところから始める
「パワハラかもしれない」と思っても、
記録をどう残すのか。
誰に相談するのか。
相談して変わらなかったらどうするのか。
実際に相談したあとも職場が動かない場合は、「介護職が上司に相談しても変わらないときの判断基準」で、再相談・別の相談先・次の判断へ進む条件を整理しています。
この職場に残るのか。
今の職場に残るかまで迷っている場合は、「介護職を辞めたいとき|『介護が無理』か『今の職場が無理』かを見分ける方法」で、介護そのものの問題と今の職場の問題を分けて整理しています。
一度に全部考え始めると、動けなくなることがあります。
この記事では、まず引っかかっている出来事を一つだけ選んでみてください。
- 何があったか
- 自分はどう感じたか・仕事にどんな影響が出たか
たとえば、
「○月○日の申し送り後、○○について注意された」
「注意の内容自体は理解できた」
「そのあとも大きな声で何度も責められた」
「怖くなり、それ以降その人へ確認しづらくなった」
というように分けます。
「これくらい普通」
と消していた違和感も、いったんそのまま残してみる。
そのうえで、
「これは一人で抱えずに話してみたい」
と思ったなら、パワハラだと自分で確定できていなくても相談して構いません。
自分の違和感を、その場ですべて正しいと決めつける必要はない。
でも、最初から「気にし過ぎ」と消す必要もない。
まず事実として残し、必要なら誰かと一緒に整理する。
そこから始めていいと思います。
