介護現場で「普通はこうする」と言われたとき|相手ルールと共有された基準を分ける方法
介護現場では、先輩から「普通はこうするでしょ」「前からこのやり方だから」と言われることがあります。
新人のころは、そもそも現場の「普通」が分かりません。
注意された内容が、本当に覚えるべき業務の基準なのか、その人だけのこだわりなのかを判断できず、戸惑うこともあるでしょう。
また、経験を積んでからも、職場や職種、これまで教わってきた方法が違えば、お互いの「普通」や「当たり前」は異なります。
結論から言えば、「普通はこうする」と言われても、それが職場全体で共有された業務基準とは限りません。
まずはその場で対立を広げず、利用者の安全やケアの継続に関わることなのか、職場で共有された基準なのかを順番に確認します。
すべての人の機嫌に合わせることを、仕事の正解にする必要はありません。
「普通」が分からない新人ほど、相手ルールに振り回されやすい
私も新人のころ、「普通はこうする」と言われて戸惑った経験があります。
まだ介護現場での経験が少ないため、相手が言う「普通」が本当に基本的な介助方法なのか、その職場独自のやり方なのか、それとも相手個人の好みなのかが分かりませんでした。
そのため、強く言われると、
「自分が知らないだけなのではないか」
「また間違ったことをしたのではないか」
と受け止めやすくなります。
しかし、介助や業務の順番、利用者への接し方には、職員によって考え方が異なる部分もあります。
同じ介護職であっても、これまで働いてきた施設や教わった方法が違えば、当たり前だと思っているやり方も変わります。
一方では「先にこちらを終わらせるのが普通」と言われ、別の人には「利用者対応を先にするのが普通」と言われることもあります。
このような状態で、相手ごとの普通へ合わせ続けると、誰と働くかによって正解が変わります。
何かを覚えても別の職員から否定されるため、自信を持って動けなくなってしまいます。
問題は、自分がすべてのやり方を覚えられていないことではありません。個人の経験や好みと、職場で共有された基準が分かれていないことにあります。
個人のやり方と、共有された業務基準を分ける
「普通はこうする」と言われたときは、内容をすぐに正しい・間違っていると決めず、次の三つの視点で見ます。
1. 利用者の安全や、ケアの継続に関係するか
最初に確認したいのは、安全やケアの継続に関わる内容かどうかです。
たとえば、次のようなことは個人の好みとして処理できません。
- 事故や誤薬を防ぐための確認
- ケアプランや個別の対応方針
- 利用者の状態変化に関する報告
- 職員間で統一が必要な記録方法
- クレームやトラブルにつながる可能性がある対応
「私はこの方法がやりやすいから」という理由ではなく、誰が担当しても同じように動ける基準が必要です。
一方で、物品を片づける細かな順番や、安全に影響しない作業の進め方などは、個人の好みに近い場合があります。すべての違いを大きな問題として扱う必要はありません。
ただし、安全や利用者対応に関わることまで「人によって違う」で済ませないことが大切です。
2. マニュアルや職場内での共有があるか
職場の基準は、必ずしも紙のマニュアルに書かれているとは限りません。
ケアプラン、申し送り、会議で決まった内容、管理者やリーダーからの指示など、職場内で共有されているものも基準になります。
反対に、その人からしか聞いたことがなく、ほかの職員は別の方法で行っているなら、個人のやり方である可能性があります。
マニュアルや決められた手順が存在しない業務もあります。その場合は、声の大きい人のやり方を自動的に正解にするのではなく、責任者やほかの職員にも確認し、職場としてどのように扱うのかを確かめます。
厚生労働省も、介護現場の業務改善について、職員によって業務の手順や方法が異なる場合には、経験や知識を見える化し、判断の基準や手順を明確にする考え方を示しています。
ただし、手順を整える目的は、すべての利用者へ同じ対応をすることではありません。個別の状況に合わせることと、職員ごとに「普通」が変わってしまうことは分けて考える必要があります。
出典:厚生労働省「介護分野における『生産性向上』とは?|手順書の作成」
3. 誰が担当しても、同じ説明になるか
共有された基準であれば、基本的には担当する職員が変わっても説明は大きく変わりません。
それに対して、次のような場合は、正式な基準というより相手ルールに近いと考えられます。
- その先輩と勤務するときだけ求められる
- 相手の気分によって注意される内容が変わる
- ほかの職員は同じことをしても何も言われない
- 「私はこうしている」という説明だけで終わる
もちろん、経験のある職員が効率的な方法を教えてくれることもあります。
個人の方法だから、すべて聞く必要がないということではありません。参考になる部分は取り入れながら、それを全員が守るべき決まりと混同しないことが大切です。
その場を荒立てず、確認へ戻す
相手ルールを押し付けられたとき、正論で言い返したくなることもあります。
私も以前は、「それはあなた個人のやり方ではないか」と考え、正しさを説明しようとして衝突したことがありました。
しかし、強いこだわりを持っている人は、こちらが正論を伝えても簡単には考えを変えないことがあります。話し合うほど自分だけが消耗し、結局は何も変わらないこともあります。
そのため、安全や正式な手順に関係しない内容であれば、必要以上に争わず流すことも選択肢です。
まずは短く受け止める
その場で結論を出す必要がなければ、まず会話を長引かせないようにします。
たとえば、
「分かりました。確認します」
「共有ありがとうございます」
「いったん確認しておきます」
と短く返します。
これは、相手のやり方を職場全体の正解として認めるという意味ではありません。その場の対立を広げず、自分で基準を確認するための返答です。
小さな好みなら、無理のない範囲で合わせる
安全や利用者への影響がなく、自分の負担も大きくない内容であれば、その人と一緒に働くときだけ合わせる方法もあります。
すべての小さな違いを正そうとすると、自分の仕事よりも相手との議論に力を使うことになります。
「どちらの方法でも問題がないなら、今回は合わせる」
と判断することは、相手に負けることではありません。変えなくても困らない部分に、自分の力を使い過ぎないための選択です。
ただし、相手の機嫌を損ねないために、すべてのやり方を覚え続ける必要はありません。自分が合わせる範囲を決めておくことが大切です。
安全やトラブルに関わる場合は、基準を確認する
利用者の安全やケア方針、記録、クレームにつながる可能性がある場合は、相手の機嫌より確認を優先します。
その場で相手を否定するのではなく、
「この対応は全員で統一されていますか」
「ケアプランや申し送りでは、どのようになっていますか」
「今後も同じ対応ができるように、確認しておきたいです」
と、個人同士の正しさではなく、共有された基準の話へ戻します。
重要なのは、「あなたのやり方は間違っている」と証明することではありません。
次に誰が対応しても、利用者が困らない状態をつくることです。
基準が整っていない問題は、個人の我慢で終わらせない
相手ルールが安全に関係しない小さなこだわりであれば、必要に応じて流すこともできます。
ただし、次のような状態が続く場合は、個人同士のやり取りだけでは解決しにくくなります。
- 同じ業務について職員ごとに説明が違う
- 新人が個人のやり方を正式な手順だと思って覚えている
- 利用者対応が担当者によって変わる
- クレームや事故につながる可能性がある
- 確認しても職場としての答えが決まらない
私自身、経験の浅い職員や自信を持てない職員が、先輩の個人的なやり方をそのまま教えられている場面を見て、好ましい教育ではないと感じたことがあります。
教える側の経験は参考になります。ただし、「私はこうしている」と「職場ではこう決めている」は、分けて伝える必要があります。
人によって指示が違う場合は、どの指示を優先するかを確認する段階へ進みます。
複数の職員から違うやり方や指示を受けて、「結局どれに従えばいいのか」と迷っている場合は、「介護職員によってやり方・指示が違うとき|基準を一本化する確認方法」で、今の職場で何を基準に動くか確認する手順を整理しています。
また、個人ルールが繰り返され、新人教育や利用者対応へ影響している場合は、責任者へ共有し、職場として基準を整える必要があります。
相談相手の選び方や伝え方は別の悩みになるため、ここでは深く扱いません。
職場として基準を整えるために相談する必要がある場合は、「介護職の人間関係を相談するとき|相談相手・伝え方・最初の順番」で、相談相手と伝え方を整理しています。
まずは次に「普通はこうする」と言われたとき、次の順番で考えてみてください。
- 利用者の安全やケアの継続に関わるか
- 職場で共有された手順があるか
- なければ、誰が担当しても同じように動ける基準を確認できるか
相手を変えられなくても、自分が何を基準に動くかは整理できます。
全員の機嫌に合わせるのではなく、利用者の安全と職場で共有された基準へ戻ることが、「何をしても正解にならない」状態から抜け出す最初の一歩です。

